父方のおばあちゃんは、ひかえめでやさしく、それこそ、おじいちゃんの三歩後ろを歩いていくような人だった。で、それとは対照的に、母方のおばあちゃんは、やさしいけれど気が強く、おじいちゃんの後ろを静々と歩くタイプでは(まったく)なかった。こけても、ただでは起き上がらないイメージであった。といって、おじいちゃんをグイグイひっぱって我先にと先頭をきって歩くタイプでもなく、一応、おじいちゃんのそばを歩いてはいるものの、ちっともおじいちゃんの言うとおりにはしない。なんというか、昔の人にしては珍しく、強く“自分”というものがある人だった。
おばあちゃんは、とてもおしゃべりで、口が動いていないことがない。あ?だらこ?だら、なんでもないことを(息つぎするのさえ惜しむように)延々しゃべっていた。3時のおやつの時間でなくても、暇をみつけて座っては、もうおやつを食べていた。おせんべいやらお饅頭やらケーキやら・・・(揚げせんべいと草加せんべいは常備)。「私の入れ歯はとても調子がいい。」と言いながら、バリっバリっバリっ!!と、ものすごい音を立てながらおせんべいを食していた。
そばに話す相手がいない時は、テレビに向かって、ずーっとしゃべっていたっけ。でもって、なにかをきっかけに怒ると、「まったくさ?。ばっかばかしくってさ?、も? やってらんないよね?っ!」と、さすがは江戸っ子。歯切れよく、そう言い放った。
何がばかばかしくて、なんでやってらんないのか・・・・。 その肝心な部分はさっぱり覚えていないのだけれど、やはり、おせんべい片手に、やたら威勢よくそう言って、周囲を圧倒していたのが印象的。でもって、耳に残ったその響きが今になって、やけに潔く、そして、なぜかホッとさせられる。だから、ちょっと真似してみる。
「ばっかばかしくってさ?、も? やってらんないよね?っ!」。
う?ん、スッキリ?。これはいい。
こたつに渋茶とぬか漬け。 おせんべい片手に繰り広げられるにぎやかな団らん。そして、おじいちゃんより強いおばあちゃん。 やっぱり家の中では、男の人より女の人が強い方が平和で、圧倒的に明るい。今も昔も同じだな。