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ちょいワルの九官鳥

ちょいワルの九官鳥


私が小学生だった頃のある日、ちょっと古びた皮膚科へ初めて行った時のこと。その皮膚科の入り口付近、年季の入ったこげ茶色をした木枠の扉の手前に、その九官鳥はいた。真っ黒くテカテカ、つやのある羽をした九官鳥は、小さい鳥かごの中の止まり木をチョン、チョン、と、せわしなく行ったり来たりしていた。

 

私と姉と母が、「うわっ、九官鳥だあ!」と足を止めた瞬間。九官鳥もまた、せわしなく動かしていた足をピタリと止め、グーーッと私たち三人を覗き込むようにして見たかと思うと、こう言った。「出~て~い~け~~!!」。私たちはびっくり。思いがけぬお出迎えに、ズッコケた。

 

それにしても、その“出~て~い~け~~!!” は、ものすごく低いドスのきいた声で、かなりの迫力であった。しかも、“出ていけ”とは、まったく聞き捨てならない。九官鳥は、よく言葉を覚える鳥。とはいっても、聞いたこともない言葉を覚えるハズもなし。とて、何ゆえ覚えてしまったのか??

 

皮膚科の先生は温厚そうで、九官鳥の口調とは似ても似つかわなかったので、なおさらに“なぜ?”がとまらない。あれこれと勝手なストーリーをつくり想像しては、あの日、私たち親子三人は、おやつのクッキーを食べながらヤケに盛り上がった。

 

また別の機会に、その皮膚科へ再び行く日があった。私たちは、九官鳥から「出~て~い~け~~!!」と言われたいがために、走っていった。ゼーゼーいいながら病院へと向かった。

 

ところが、その九官鳥は、一転、すまし顔。無言のまま、チョンチョンと、止まり木を行ったり来たりするのみ。そしてそれから、私たちの前で二度と“出~て~い~け~~!!”を披露してくれることはなかったのだった。

 

そんなこともあり、九官鳥は、私の中では、ちょいワルなイメージ。いつか飼ってみたい動物の一つでもある。もし飼うチャンスがあったなら、私は九官鳥に言葉は教えたくない。そして、九官鳥の口から自然にでてくる言葉をひたすら待ちたい。その先で、いったい何をしゃべってくれるのか??それがとても興味深い。

 

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高木千春

福岡生まれ。行正り香の1つ違いの妹。「ちはるのお笑い日記」執筆中。

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